株の効用

趣味で株の売買をしています。
商売人の家の子供として生まれ、物事を考える基軸のひとつに「経済」が含まれていることが小さい頃から自然なことでした。
親としてはあまり子供にカネカネ言いたくなかったらしく、その辺りの話は避けられていましたが、そんな親の気持ちをよそに高校生の頃には祖母の部屋にこっそり侵入しては経済や経営の本を盗み読みしていた記憶があります。
そのうちに、企業の成り立ちについて興味を持ち、自然の成り行きとして株取引にも興味を持つようになりました。
ちょうど株券電子化が進み、ネット上での株取引が気軽でメジャーなものになったことにも背中を押される形で、大人になって自分の自由なお金が増えた頃に証券会社に口座を作り、初めは怯えながらも少しずつ取引を開始し、取引金額を増やしながら現在に至っています。

儲かってまっか?と聞かれると、そこまでです。利益も出ますが、損失もたくさん出ます。
相場なんてそう読めるものではありません。
例えばコロナウイルスの流行であらゆる地域が閉鎖され、国から国への人の行き来もなくなり、世界経済が停滞。それによりこれからリーマンショックや世界恐慌以来の経済的危機の可能性を抱えることになろうなんて、一体誰が予測出来たでしょうか?
日本株に関しては、繰り返される金融緩和の影響、そして宿泊業観光業などを中心としたオリンピック特需に対する期待などにより株価のゆるやかな上昇が続いていましたが、ウイルスの流行によりオリンピックは延期。相場は人々の不安を映し出すように大暴落した後、混乱を続けています。
これは誰にも予測の出来ないことだったと思います。
私はコロナの影響で株価の下落が始まった直後に危機を感じ、短期保有の商品は売却し、それ以降はとりあえず売買は控えて様子を見ていましたが、正直少しダメージを受けました。

しかし、それでも株に興味を持つこと、そして実際に売買をしてみたり経済ニュースをチェックするのはやはり素晴らしいことだな〜と改めて思ったところでもあるので、今回はそのことについて書きたいと思います。

1.株を買うと、世の中に興味が持てる
デモトレードアプリなんかもありますが、デモトレードではなく実際に証券会社で口座を開設し、少額から実際に投資してみるのが良いと思います。何故なら人間、自分のお金が関わっているとなると俄然興味が湧いて来るものだからです。
どの銘柄に投資をするか考えてみると、自分がどの業界によく関わっていてどの業界の商品を買っているか、なんとなく気がついてきます。そこからその会社について、その業種について、色々調べて行くと、世の中には本当に色々な会社があることに気がつきます。
人が一人では生きられないのと同じように、会社も単体では存在し得ません。会社は単に顧客のニーズに応えて利益を得ているだけではなく、その運営を維持するためにも他の多くの会社の商品やサービスが関わっています。
例えば、今、近所のカフェでアイスコーヒーを飲んでいます。提供してくれたのはカフェですが、コーヒー豆は大体南米やアフリカ辺りから輸入されてここまでやってきているでしょうし、このアイスコーヒーに刺さっている紙ストローを作る仕事も、コップを作る仕事も、それを運ぶ仕事もあるはずです。
じゃあ、それらの仕事はこの先、どうなるんだろうか。世の中から多く必要とされる仕事で、かつ、今はまだそこまで注目されていないような会社があったら「買い」でしょう。

2. 新しい物の見方を覚えて、生活が楽しくなる
実際に商品を買ったら、値動きはやはり気になりますし、業績やその会社の新しいサービスなどもチェックするようになります。他の商品のことも気になってきます。
株について調べたり学ぶために、例えば会社四季報(上場企業のデータが載っている辞書のような本)やネットの情報サイト、その他、株や投資についての書籍を読んでデータを分析する力を付けたりするのももちろん大切ですが、ブラブラと街を歩いたり、なんとなくネットサーフィンをすることもとても勉強になります。
そこでふっと気になるような物や情報、よく見かける言葉なんかが見つかったら、それに関連しているのは一体どういう会社なのか調べてみるのです。
例えば、先ほどのアイスコーヒーには紙ストローが刺さっていました。ここで、最近はマイクロプラスチック削減のため、ストローやショッピングバッグが紙に変わった店が増えていることを思い出します。
ストローを作っている会社って考えたことがなかったけれど、そりゃ絶対にどこかにはあるよな。紙の材料はパルプ。紙ストローは増えたけどペーパーレス化が進んでいるし、石油製品の代替品として紙のニーズが増えたとしても、総合的に見たらこれから消費量は減るんじゃないだろうか…。
段々、こんな感じの物の見方をするようになってきます。生活がちょっと楽しくなります。

3.お金の使い方を考えるきっかけになる
経済ニュースをチェックしたり株価のチャートを眺めていると、経済というのはすぐにあっちに振れたりこっちに振れたり、実質人の心の動きなんじゃないかと思えてくることがあります。
現代経済学では自分自身の利益が最大化するように動く、抽象化した人間モデル(合理的経済人)を基準に物を考えることが多いそうですが、確かに抽象化したら人間って無意識に同じような動きをするもんだよなと思うんです。
しかし、そういった人間としての自然な心の動きに加え、経済に対して一歩引いた客観的な目線を持つと、何も知らなかった頃とはまた違った価値観が育って来ます。
色々な企業や仕事について調べているとひとつの企業や経済全体に対して期待するようになりますし、自分が働いて稼いだお金が一体どこに流れて行くのかについて、多少シビアになります。
物やサービスを選ぶのも、ある意味では投資行為です。このお金がどこかの企業の売り上げになり、それがまた誰かに渡って行きます。例え仕事をしていなくても、必要とする物やサービスがある以上、経済に参加していると言える訳です。
では、どういう所にお金を投じたいか。逆に、投じられたいか。
株をきっかけに色々なことを勉強して行く内に、そんなことをよく考えるようになりました。

4.注意点
冒頭で書いた通り、相場はそうそう読めるものではありませんし、取引をする中で本当にたくさん失敗をして損失も出ます。そういうものだと理解していても、自分のお金が刻一刻と増えたり減ったりするのを見ているのは中々心臓に悪いものがあります。
だから私は慣れて来て色々なことが分析できるようになったとしても、利益を出せたとしても「自分はバフェット(天才投資家の名前)ではない」と常に心に留め、株式市場とはほどほどの距離感で付き合うようにしています。
ですので、もしこれから株を始める方がいらっしゃったら、失っても痛みのない金額から始めるようにして下さい。信用取引をしない限り、投資した金額以上の損失が出ることはありません。
プロの投資家やよほどの才能がある人でもない限り、投資は大切な自分の人生とお金をより楽しく豊かにするためのものであって、人生とお金を賭けるものではないと思っておくべきでしょう。

他にも、データを読み解く楽しさがあるとか株主優待が送られて来ると嬉しいとか色々思っているところがありますが…。盛り上がって長々と書き過ぎたのでとりあえず以上です。
モノの販売も購入も労働も投資も全て経済活動であり、よって、私たちは誰もが経済の主体です。
ならば、せっかくなので、主体としての自覚を持って、自分がなにを好み、なにを望み、なにに期待するのか、よく考え、楽しく経済活動を送りたいものです。
株式投資に触れるのはそのためにとても有用であると私は思っています。